SIerはやめとけと言われる5つの理由|公的データで検証

「SIerはやめとけ」が入る前の人向けの言葉であることを示す記事のアイキャッチ
テックスカウト編集部

「SIerはやめとけ」とは、SIerという業態への就職・転職を思いとどまるよう勧める言い回しです。編集部の結論を先に書きます。この言葉は、ほとんどが「これから入る人」に向けて書かれています。40歳前後ですでに中にいるあなたにとって、「入るな」は判断材料になりません。

編集部は2026年8月23日に「sier やめとけ」の検索上位10件を確認し、見出し291本(h1〜h3)を全件数えました。「40代」「40歳」を含む見出しは0本、政府統計や公的調査の名称を含む見出しも0本でした。

この記事では、上位10件が挙げる5つの理由を抽出したうえで、公的統計で当否を確かめられる2つ(長時間労働・定着)を検証します。確かめられない3つは、あなたの会社に当てはまるかを自分で判定できる問いに置き換えます。

「SIerはやめとけ」は誰に向けて書かれているか

上位10件はすべて、入る前の人を読者に想定して書かれています。 編集部が2026年8月23日に実際に数えた結果は次のとおりです。

確認項目 結果
見出しの総数(上位10件・h1〜h3) 291本
「40代」「40歳」を含む見出し 0本
「新卒」「就活」「就職活動」を含む見出し 32本(うち20本は3位のQ&Aサイトの関連質問一覧)
政府統計・公的調査の名称を含む見出し 0本
Q&Aサイト 10件中2件
特定の分類に限定した記事(メーカー系・独立系) 10件中3件
個社名と年収・売上の序列を載せている記事 10件中2件
平均文字数 15,679字(最短2,992字・最長45,743字)

数字が示しているのは1つです。このキーワードの言説は、就職・転職の入口に立つ人のために作られています。 1位は入社2年目の現役社員による体験記で、10件のうち最短の2,992字でした。5位と9位は新卒就活サイト、3位と8位はQ&Aサイトです。

在職中のあなたが読んで役に立つのは、この構造を踏まえたうえでの2つだけだと編集部は考えます。批判のうち公的統計で当否を確かめられる部分と、批判が自分の会社に当てはまるかを確かめる問いです。

なお、上位10件のうち複数は転職支援サービスの運営メディアです。「やめとけ」と書く記事の結論が、書き手の報酬構造にあらかじめ寄っている可能性は、別の記事で扱いました。同じ論点の詳細は常駐という働き方の側から批判を仕分けた記事にまとめてあります。当サイトも転職サービスの紹介で収益を得ており、この構造の外にはいません。

この記事が扱わないこと

SIerという業態そのものの定義・分類・商流の地図は、本記事では扱いません。SIerの定義と業界構造をまとめた記事が担当しています。

また、辞めると決めた後にどちらへ動くかという工程も扱いません。そちらは辞めると決めた後に方向を決める4つの判定軸が担当しています。本記事が引き受けるのは、その手前の「そもそも言われていることは本当か」だけです。

上位10件が挙げる「やめとけ」の5つの理由

理由は5つに集約されます。 編集部が上位10件の見出しから抽出し、その理由を見出しに掲げているサイト数を数えました(2026年8月23日実測)。

# 「やめとけ」の理由 見出しに掲げているサイト数
技術力がつかない・調整や管理ばかりになる 7
長時間労働・納期の圧力(激務) 5
多重下請け構造で給与・単価の天井が低い 5
将来性・キャリアパスが見えない(オワコン説) 5
客先常駐が多い 5

この5つを、公的統計で当否を確かめられるかどうかで仕分けます。仕分けの基準は単純で、産業単位でよいから公表された数字が存在するかどうかです。

「やめとけ」の論点 公的統計で当否を確かめられるか 本記事での扱い
②長時間労働 確かめられる(産業単位) 下記「検証1」
(追加)みんな辞めていく 確かめられる(産業単位・2系列) 下記「検証2」
①技術力がつかない 編集部が確認した範囲では、該当する公的統計は見当たらない 自分への問いに置き換え
⑤客先常駐が多い 同上(SIerに限定した常駐比率の統計は確認できず) 自分への問いに置き換え
③天井が低い 商流の実数は公表されているが、あなたの会社の位置までは分からない 自分への問いに置き換え
④将来性 産業単位のデータはあるが本記事の主題外 SIerという業態の全体像を扱った記事へ送客

「みんな辞めていく」は上位10件の見出しには現れませんが、検索側には需要があります。「sier 辞めてよかった」「sier つまらない」はいずれも月間90回検索されています(編集部調べ。2026年8月23日にラッコキーワードで取得)。見出しにならない不安ほど、統計で確かめる価値があります。

SIerがやめとけと言われる理由を検証できるものとできないものに仕分けた図

検証1:「激務」は本当か——1日あたりに直すと差は約12分

残業は調査産業計より長めですが、1日あたりに直すとその差は約12分です。 「激務」という言葉が想起させる規模ではない、というのが編集部の読み方です。順に見ます。

情報通信業と調査産業計の月間実労働時間は次のとおりです(一般労働者・事業所規模5人以上・2025年)。

区分 情報通信業 調査産業計
総実労働時間 160.5時間 160.5時間
所定内労働時間 144.0時間 147.3時間
所定外労働時間 16.5時間 13.2時間
出勤日数 18.8日 19.2日

出典:厚生労働省「毎月勤労統計調査 2025年分結果確報」第2表(2026年2月公表)。

月の合計だけを見ると、所定内が3.3時間短く、所定外が3.3時間長い形です。本記事が注目するのは、出勤日数が0.4日少ないという点です。 働く日数が違うまま月の合計を比べても、1日の実感には届きません。

1日あたりに直すと何が見えるか

上の月間値を出勤日数で割ると、次のようになります(いずれも編集部の算出であり、原典に掲載されている値ではありません)。

1日あたり 情報通信業 調査産業計
所定内労働時間 約7時間40分 約7時間40分
所定外労働時間 約53分 約41分

1日あたりの所定内労働時間は、どちらも約7時間40分でほとんど変わりません。 差はほぼすべて所定外に集約され、その大きさは1日あたり約12分です。

「働く日数は少ないが、1日あたりの残業はやや長い」。これが産業単位で見たときの実像です。月45時間を恒常的に超えるような働き方が産業全体の標準になっている、という読み方はこのデータからはできません(36協定で延長できる時間外労働の限度時間は原則として月45時間です)。

この数字で言えないこと

限界を3つ明示します。

  1. これは産業大分類「情報通信業」の値です。 通信キャリア・放送・出版・Web系の自社開発も含まれており、SIerだけを切り出した数値ではありません
  2. SIerに限定した労働時間の公的統計は、編集部が確認した範囲では存在しません。 産業内の分散、つまり元請と最終下請の差はこの数字からは見えません
  3. 平均は、個々の現場のデスマーチを否定しません。 あなたの現場が月80時間の残業なら、産業単位の数字が何であろうと、それは事実です

時間そのものを立て直す段取りは、40代が時間の使い方から立て直す手順にまとめています。本記事は当否の検証までを担当します。

情報通信業と調査産業計の月間労働時間の内訳と1日あたりの差を示した図

検証2:「みんな辞めていく」は本当か——大卒3年以内離職率は調査産業計を下回る

独立した2つの公的統計は、いずれも情報通信業の離職を調査産業計より低く示しています。 ただし編集部は「離職率が低い業界です」とは書きません。理由は後述します。

新規学卒者(大学卒)の3年以内離職状況は次のとおりです。

卒業年(集計時点) 情報通信業 調査産業計
令和3年3月卒(令和6年6月集計) 29.3% 34.9%
令和4年3月卒(令和7年6月集計) 27.2% 33.8%

令和4年3月卒の実数は、情報通信業が就職者50,819人に対し3年目までの離職者13,833人、調査産業計が就職者449,012人に対し離職者151,911人です。原典の表は実数のみを掲載しているため、率は編集部が実数から算出しました。

出典:厚生労働省「新規学卒者の離職状況」(令和7年10月発表分)産業別(大分類)表。

厚生労働省「令和6年雇用動向調査結果の概況」という別の系列でも向きは同じで、情報通信業の離職率は調査産業計を下回っています(2024年。全産業を対象とする調査で、IT・情報通信業限定の調査ではありません)。その具体的な数値はSES契約の側から同じ批判を検証した記事ですでに扱っているため、本記事では重ねません。

それでも「離職率が低い業界です」と書かない理由

編集部が断定を避けるのは、次の3点があるからです。

  • 構成の違いが統制されていません。 情報通信業はパートタイム労働者比率が4.90%と、調査産業計の31.31%に比べて極端に低い産業です(前掲・毎月勤労統計調査 2025年分結果確報 第3表)。非正規が少ない産業は、契約期間の満了による離職が少なくなります
  • 離職率は「辞めやすさ」とは別の概念です。 その年に辞めた人の割合であって、辞めたい人の割合ではありません
  • 産業内の分散が見えません。 大分類には通信キャリアから最終下請まで同居しています

そのうえで、「みんな辞めていく」という言い方が、少なくとも2つの独立した公的統計からは支持されない、とは書けます。あなたの周囲で退職が続いているとしたら、それは業態の問題ではなく、その会社で起きていることです。

大学卒3年以内離職率の情報通信業と調査産業計の比較グラフ

確かめられない3つは、自分の会社への3つの問いに置き換える

技術力・客先常駐・天井の低さについては、あなたの会社に当てはまるかどうかを判定できる公的統計を、編集部は見つけられませんでした。 ここで止まると「人それぞれ」で終わります。そうしないために、批判を自分で判定できる問いに変換します。

「やめとけ」の理由 置き換える問い 答えの読み方
技術力がつかない 直近3年で、担当する工程は増えたか 増えていないなら、批判はあなたの会社に当てはまっている
客先常駐が多い 自分の仕事ぶりを評価する人は、常駐先と自社のどちらにいるか 分離しているほど、評価は届きにくい
天井が低い 自社が受けている仕事は、誰から入ってきているか 発注元と直接話せていないなら、間に人が入っている

この3つは、業態が何であるかとは無関係に答えが出ます。「SIerだから」ではなく「この会社だから」に問題を戻すのが、40歳が使える判断です。

3つ目の問いに答えるには、業界の商流のどこに自社がいるかを知る必要があります。その手がかりになる実数は、元請から最終下請までの受注の配分を実数で示した解説に公正取引委員会の調査をもとに整理してあります。

なお、同じ会社が「SIer」とも「SES企業」とも呼ばれることがあります。呼び名が違っても契約が違うとはかぎりません。この点は呼び名の違いが契約の違いを意味しない理由にまとめています。

編集部の運営メンバーには、採用側として三桁の人数の面接に関わった経験があります(職種はWebマーケティング領域で、エンジニア職ではありません)。その経験の範囲で言えることが1つあります。面接で聞かれるのは業界への評価ではなく、あなたが何をどこまでやったかです。 業態への評価を語れても、上の3つの問いに答えられないと、選考では材料が足りません。

40歳の結論——軸ごとに言い切る

「やめとけ」に一般解はありませんが、軸を決めれば結論は出ます。 編集部は次のように考えます。

  • 年収を最優先するなら:業態ではなく商流の位置を変えるべきです。同じSIerでも元請と最終下請では原資が違います。「SIerを辞める」ではなく「受注の形を変える」が先です
  • 時間を最優先するなら:産業単位のデータでは所定外の差は1日あたり約12分でした。業態を移ることで期待できるのは、この程度の差にすぎません。 確認すべきは業態ではなく、自社のみなし残業の時間数と、あなたの現場の実残業です
  • 技術で積み直したいなら:検証できない批判のうち、ここだけは実際に当たっている場合があります。直近3年で担当工程が増えていないなら、環境を変える理由になります
  • 心の平穏を最優先するなら:業態の議論に付き合う必要はありません。健康を削る長時間労働やハラスメントの下では、編集部は3年どころか3か月も勧めません

どの軸を選ぶにしても、原資は同じ値札(市場価値)です。 そして値札は想像ではなく実測で知るものです。まずはいまの値札を公的な相場で測る手順を試してから、辞める・残るを決めてください。

「辞める」を選んだ場合の次の工程は本記事の担当外です。外へ出るか商流を上るかという方向の決め方は、方向を決めてから行き先を選ぶ手順にまとめてあります。

よくある質問

なぜSIerはやめとけと言われるのですか?

上位10件の見出しから抽出すると、理由は5つに集約されます。 技術力がつかない(7サイト)、長時間労働(5サイト)、多重下請けで天井が低い(5サイト)、将来性が見えない(5サイト)、客先常駐が多い(5サイト)です(2026年8月23日・編集部実査)。ただしこれらは業態への批判として書かれており、書き手が想定しているのは入社前の読者です。

大手SIerはつまらないですか?

「つまらない」の中身は、多くの場合「コードを書く時間が少ない」ことを指しています。 上位10件でも、担当が調整・管理に寄るという指摘が7サイトの見出しに出ていました。これが不満になるかどうかは、あなたが積みたいものによって変わります。要件定義や顧客折衝を積みたいなら、同じ環境が有利に働きます。

SIerに向いていないのはどんな人ですか?

手を動かす時間の長さを最優先する人には、向きにくい環境だと編集部は考えます。 上位10件が挙げる「向いていない人」も、コードを書き続けたい人・調整業務を負担に感じる人でほぼ一致していました。ただしこれは性格診断ではなく、担当工程の配分の話です。あなたの現在の担当工程が何割開発かを数えるほうが、適性論より速く答えが出ます。

「SIerを辞めてよかった」という声は本当ですか?

本人にとっては本当です。ただし、あなたの判断材料としては弱い情報です。 辞めてよかったと書く人は、辞めて後悔した人より発信しやすく、残って満足している人はそもそも書きません。口コミだけで結論を出さず、複数の情報源で同じ指摘が長期間にわたって繰り返されているかを確認してください。

SIerはオワコンですか?

編集部は「オワコン」という語で業態を評価しません。 求人が減る一方で投資は増えているというように、方向の違う公的データが同時に存在するためです。この2つのデータの中身は求人と投資の2データで業界の現在地を整理した記事で扱っています。

まとめ

  • 「SIerはやめとけ」は、ほとんどが入る前の人に向けて書かれた言葉です。上位10件の見出し291本に「40代」「40歳」は0本でした(2026年8月23日・編集部実査)
  • 5つの理由と「みんな辞めていく」という言い分のうち、公的統計で当否を確かめられるのは長時間労働と定着の2つです
  • 長時間労働:1日あたりに直すと所定内はどちらも約7時間40分でほぼ同じ、所定外の差は約12分でした(編集部の算出。2025年の産業単位データ)
  • 定着:大学卒の3年以内離職率は情報通信業27.2%、調査産業計33.8%(令和4年3月卒)。ただし産業構成の違いは統制されていません
  • 確かめられない3つは、担当工程・評価者の位置・受注の形という自分への問いに置き換えてください
  • 次にやること:辞める・残るを決める前に、値札を実測する40代が自分の値札を測るときの進め方から始めるのが、編集部のおすすめです

参考・出典


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