多重下請け構造とは?何次請けまであるかを実数で確かめる
多重下請け構造とは、1つの開発案件が発注元から現場に届くまでに、再委託が何度も積み重なった取引の形のことです。ただし「何次請けまであって、それぞれ何社あるのか」を数えた公的な集計は、編集部が確認した範囲では見当たりません。公的な実数として確認できるのは、受注側の自己申告による元請40.4%・中間下請38.2%・最終下請21.3%という3区分までです(公正取引委員会・2022年)。
この記事では、階層をどう数えるのか、中間マージンがどこで引かれるのか、下請にどの工程が回ってくるのかを、公正取引委員会の調査と条文で確かめます。あわせて、運送業と建設業には階層を数える法定の仕組みがあるのに、ソフトウェア開発には同種の書面が見当たらないことも示します。あなたの単価が上がらない理由を能力の問題にする前に、間に何本の契約が挟まっているかを疑うための材料です。
多重下請け構造とは?再委託が積み重なった取引の形
多重下請け構造とは、発注元から受注した仕事が、下請・孫請けへと再委託を繰り返しながら現場に降りていく取引の形です。ソフトウェア開発では、この形が例外ではなく常態であることを、公正取引委員会が調査報告書で明記しています。
多重下請構造は、他の業種においても存在が指摘されているところ、ソフトウェア制作の取引においては、エンドユーザーのニーズの多様化、プログラム言語等から生じる専門性、1社だけでは必要な人員を確保できない等の理由から外注取引が積極的に利用されており、一定規模以上の開発では多重下請構造型のサプライチェーンが形成されている。
(引用:公正取引委員会「ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書」2022年6月29日公表)
ここで押さえておきたいのは、この言葉が構造の存在は語るのに、深さは語っていないということです。「多重」が何重なのかは、この記述からは分かりません。本記事はその「何重か」を追いかけます。
なお、SESという契約そのものの仕組み、準委任・請負・派遣の違い、カネの流れの全体像は、SESの定義から企業の見分け方までをまとめた総論で扱っています。あちらが仕組みの概説、この記事は階層そのものの数え方と実数という分担です。重複を避けるため、本記事では契約類型の比較表を再掲しません。

何次請けまであるのか——階層を数えた公的な集計は見当たらない
結論から書きます。「IT業界に何次請けまで存在し、それぞれ何社あるのか」を数えた公的な集計は、編集部が確認した範囲では見当たりません。
編集部が確認したのは次の資料です。公正取引委員会の前掲報告書は、2026年8月25日に本文を通読しました。残りの4件は、編集部が2026年8月23日に実施した確認の記録によります。
- 公正取引委員会「ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書」(本文を通読)
- 総務省・経済産業省「情報通信業基本調査」の調査事項
- 経済産業省「特定サービス産業実態調査」(廃止済み)
- 厚生労働省「労働者派遣事業報告書の集計結果」
- e-Statの横断検索
存在しないことは証明できないため、「統計がない」とは書きません。ただ、階層の話をしながら階層を数えていないのは、この業界の議論そのものの性質だと編集部は考えます。
公正取引委員会が示すのは「自分がどの層か」の3区分
公的な実数として取れるのは、受注側の企業が自社の位置をどう認識しているかまでです。3区分の内訳と、層ごとの属性の差は次のとおりです。
| 調査項目(受注側の回答) | 数値 |
|---|---|
| 取引上の位置付け(n=4,589) | 元請40.4%/中間下請38.2%/最終下請21.3% |
| 資本金1,000万円以下の割合(n=4,577) | 全体54.5%に対し最終下請は68.6% |
| 下請取引依存度90%以上(n=2,670) | 全体36.3%/中間下請31.6%/最終下請44.6% |
| 取引先(発注元)が1社のみ | 全体11.8%/中間下請7.7%/最終下請19.2% |
(出典:前掲・公正取引委員会「ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書」。資本金3億円以下の事業者2万1,000社に協力を依頼し4,739社が回答。割合はいずれも受注者側の回答です)
この3区分は「元請か、途中か、末端か」を答えたものであって、途中が何段あるかは聞いていません。中間下請38.2%という数字は、2次請けも5次請けも同じ1つの箱に入っています。3区分と「何次請けか」は別の物差しだと理解してください。

「何次まで」が分かるのは自由記載の実例まで
同じ報告書の自由記載には、深さに触れた回答が残っています。編集部が本文で確認できたのは次の3件です。
- 「個人事業者として活動していた際に6次下請の末端技術者として参加したことがある。」
- 「最大で4次請け案件の経験がある。」
- 「エンジニアの準委任契約では最大5社が中間に入るケースがある。」
(引用:前掲・公正取引委員会「ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書」)
これらは個別の経験談であって、分布でも平均でもありません。「6次まである」とは言えても、「6次が何%ある」とは言えない、というのが現在到達できる限界です。数字を持たない語りが「多重下請け構造」という言葉で流通してきた理由は、ここにあると編集部は見ています。
階層を数える法定の仕組みは、他業界にはある
ここが本記事の中心にある対照です。運送業と建設業には、階層を書面に残させる法律があります。
貨物自動車運送事業法24条の5の見出しは「実運送体制管理簿の作成等」です。同条1項は、一般貨物自動車運送事業者が真荷主から引き受けた一定の貨物の運送で他社の運送を利用したときに、この管理簿の作成を義務づけています。同項3号は、記載事項のひとつとして「請負階層」を挙げ、次のように定義しています。
第一号の貨物自動車運送事業者の請負階層(当該貨物自動車運送事業者が実運送を行う貨物の運送に関して締結された運送契約のうち、真荷主との運送契約の後に締結された運送契約の数をいう。)
(引用:e-Gov法令検索 貨物自動車運送事業法24条の5第1項3号/2026年8月25日に編集部が原文を確認)
注目してほしいのは、階層を「会社の数」ではなく「契約の数」で定義している点です。建設業にも同種の仕組みがあります。建設業法24条の8(見出し「施工体制台帳及び施工体系図の作成等」)第1項は、特定建設業者に対し、政令で定める金額以上の下請契約があるときに施工体制台帳の作成と工事現場ごとの備置きを義務づけています(同じく2026年8月25日に編集部が原文を確認)。
建設業にはもう1つ、一括下請負の禁止という規律もあります(建設業法22条1項・2項)。請け負った工事をまるごと他人に請け負わせること、およびそれを請け負うことを、原則として禁じる条文です。
ソフトウェア開発に、これらに相当する法定の書面や禁止規定は、編集部が確認した範囲では見当たりません。だからIT業界の階層は、公的に数えられないまま置かれています。階層を語るなら、会社の数ではなく契約の本数で数えるべきだ——というのが、条文から編集部が引き出した立場です。
中間マージンはどこで抜かれるのか——契約が1本増えるたびに
抜かれる場所は、会社と会社のあいだではなく、契約と契約の継ぎ目です。公正取引委員会は同じ報告書で、こう書いています。
多重下請構造下では、エンドユーザーの発注金額を上限として、再委託の都度、中間マージン等が差し引かれるため、下層に行くほど、受注金額が低くならざるを得ない。
(引用:前掲・公正取引委員会「ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書」)
「再委託の都度」という言い方が正確です。引かれる回数を決めているのは会社の規模でも技術力でもなく、あいだに挟まった契約の本数です。前節の「請負階層」が契約の数で定義されていたことと、数え方の発想は同じだと編集部は見ています。
そのぶん、下層にいる会社ほど「間に不要な会社がいる」という実感を持っています。不必要な「中抜き」事業者の存在を感じたことがあると答えた割合は、全体25.9%に対して、元請18.5%・中間下請29.2%・最終下請33.5%でした(出典:前掲・公正取引委員会)。層が下がるほど実感が強まる形です。
なお、単価そのものの水準がいくらかという話は本記事では扱いません。人月単価の相場と、単価が給与に変わるまでの分配は人月単価の水準そのものを扱った記事にあります。「還元率◯%」という掲げ方をどう検算するかは掲げられた還元率を疑うための質問です。
下請に回ってくる工程——開発56.6%、要件定義5.5%
階層が下がると、金額だけでなく担当する仕事の種類も変わります。公正取引委員会が「下請として担当することの多い工程」を尋ねた設問で、編集部が原典で確定できた区分は次の3つです。
| 工程 | 下請事業者の割合 |
|---|---|
| 開発(プログラミング)工程 | 56.6% |
| 設計工程(外部設計・内部設計) | 20.6% |
| ユーザーへの提案・要件定義 | 5.5% |
(出典:前掲・公正取引委員会「ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書」。この設問には他の選択肢もありますが、編集部が原典で数値を確定できなかったため掲載していません。したがって上の3区分の合計は100%になりません)
読み取れるのは、下請の仕事は工程の後ろ半分に細分化されているということです。上流にいるほど「何を作るか」を決める工程を持ち、下層に行くほど「決まったものを作る」工程だけが渡されます。
40歳になって要件定義の経験を職務経歴書に書けない人は少なくありません。それは挑戦しなかったからではなく、その工程が5.5%しか降りてこない位置にいたからだ、というのが編集部の見立てです。

なぜなくならないのか——階層を固定する3つの力
「なぜ多重下請けが多いのか」への答えを、編集部は3つの力に整理しています。いずれも公正取引委員会の実数に対応させたものです。
1つ目は、取引の入口が人のつながりで決まっていること。受注の経緯を尋ねた設問(n=2,588)では、「元々、特定のベンダーの協力会社等となっており、その関係での受注が多い」が43.0%でした。「代表者・従業員の人間関係(コネ・ツテ)等を通じて受注することが多い」も32.1%あります。入口が人のつながりで決まっていれば、階層も動きにくくなると編集部は考えます。
2つ目は、取引先の少なさ。最終下請の44.6%が下請取引への依存度90%以上で、19.2%は発注元が1社だけです(前掲の表)。取引先が1社なら、条件を交渉した瞬間に売上がゼロになりうる、ということでもあります。
3つ目は、問題を問題として扱えないこと。独占禁止法・下請法の知識が十分とはいえないと答えた事業者は49.0%でした(n=4,321)。問題のある行為を受けたときの対応では、「今後取引できなくなる可能性を減らすため、泣き寝入りした」が214件で、複数選択の回答(n=497)のなかで最も多い件数でした(いずれも前掲・公正取引委員会)。入口が人脈で決まり、出口が1社しかなく、ルールを知らない——この3つがそろうかぎり、階層は自然には浅くならない、というのが編集部の見立てです。
「多重下請け=違法」ではない:違法になりうるのはどこか
再委託を重ねること自体を一般に禁じる法令は、ソフトウェア開発については編集部が確認した範囲では見当たりません。違法性が問題になるのは、構造の深さではなく個々の契約と働き方の実態です。編集部が押さえるべきだと考える型は3つあります。
- 実態が労働者派遣なのに契約が準委任・請負になっている場合(いわゆる偽装請負)。労働者派遣か請負・準委任かは契約書の名称ではなく実態で判断されます(区分基準:昭和61年労働省告示第37号)
- 人を提供する事業が二重・三重に重なる場合。労働者供給事業は職業安定法44条で原則禁止されています
- 下請代金の減額・買いたたき・支払遅延などが行われた場合。これは下請法の禁止行為の問題です
3つ目については、行政の実績が数字で出ています。公正取引委員会は同じ報告書で、次のように書いています。
令和3年度における公正取引委員会の下請法の実体規定違反件数(7,878件)について、業種別(日本標準産業分類における中分類ベース)で見た場合、ソフトウェア業を含む「情報サービス業」(686件)が全業種の中でトップとなっている。
(引用:前掲・公正取引委員会「ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書」)
686件の内訳は、支払遅延82.7%・買いたたき9.2%・下請代金の減額6.4%です(同)。件数の多くを占めるのは代金の支払いに関する違反だ、と読めます。
構造そのものは適法でも、そこで起きている取引には行政が入っている、というのが実数から読める姿です。自分の契約がどの型に当たるかを確かめたい場合は、準委任の契約条項をどこまで読み込むかを先に読んでください。なお、個別の違法性の判断は都道府県労働局・公正取引委員会などの公的窓口に相談するのが確実です。
40歳前後のエンジニアが、この構造の中で次にすること
構造を知っただけでは値札(市場価値)は動きません。編集部が勧める順番は「数える→測る」です。今日転職を決める必要はありません。
数えるとは、あなたと発注元のあいだに何本の契約が挟まっているかを、契約の本数として把握することです。前述のとおり、この数え方は運送業では法律が決めている一方、ソフトウェア開発には公的に数える仕組みがありません。だから自分で数えるしかない、というのがこの構造の実務的な結論になります。
測るとは、いまの階層の外で自分にいくらの値が付くかを確かめることです。スカウトサービスに職務経歴を置き、どの商流の会社からどんな条件で声がかかるかを定点観測してください。階層を上げる転職は、階層の中にいるままでは値段が分からない——これが編集部の立場です。
なお、この記事を書いている編集部の運営メンバーの職種はWebマーケティング領域であり、SES・SIerの現場で働いた経験はありません。ですから本記事に体験談は書いていません。書いたのは、公正取引委員会の報告書本文を通読し、条文をe-Gov法令検索で1条ずつ開いて確かめた結果だけです(いずれも2026年8月25日)。
よくある質問
多重下請けは何次までできますか?
上限を定めた法令は、ソフトウェア開発については編集部が確認した範囲では見当たりません。実態としては、公正取引委員会の報告書の自由記載に「6次下請の末端技術者として参加したことがある」という回答が残っています。ただしこれは個別の経験談であり、何次が何%あるかという分布は、編集部が確認した範囲では見当たりません。
多重下請けは違法ですか?SESの多重下請けはどうですか?
再委託を重ねること自体を一般に禁じる法令は、編集部が確認した範囲では見当たりません。違法性が問題になるのは、構造の深さではなく個々の契約の実態です。
具体的には3つの場面があります。実態が労働者派遣なのに準委任・請負として契約している場合(偽装請負)、労働者供給に当たる場合(職業安定法44条)、下請法の禁止行為が行われた場合です。SESでも判断の枠組みは同じで、契約書の名称ではなく指揮命令の実態で見られます。
多重下請け構造と中抜きの関係は?
中抜きは、多重下請け構造のなかで再委託の都度、中間マージンが差し引かれる現象を指す言い方です。公正取引委員会の調査では、不必要な「中抜き」事業者の存在を感じたことがあると答えた割合が、元請18.5%に対し最終下請33.5%でした。下の層ほど実感が強くなる形です。抜かれる回数は、あいだに挟まった契約の本数で決まります。
多重下請けが禁止になるのはいつからですか?
ソフトウェア開発について多重下請けを一般に禁止する制度は、編集部が確認した範囲では見当たりません。この質問で検索されている内容の多くは、トラック運送業に関するものだと編集部は見ています(関連キーワードの実測でも運送業との掛け合わせが上位に並びます)。運送業では貨物自動車運送事業法24条の5により実運送体制管理簿の作成が義務づけられ、記載事項に「請負階層」が含まれます。禁止そのものではなく、階層を書面に残させる仕組みだという点にご注意ください。
まとめ
- 多重下請け構造とは、再委託が積み重なった取引の形。存在は公正取引委員会が明記しているが、深さを数えた公的な集計は編集部が確認した範囲では見当たらない
- 公的に取れるのは元請40.4%/中間下請38.2%/最終下請21.3%という3区分まで。「途中が何段あるか」は聞かれていない
- 「何次まで」を示すのは自由記載の実例(6次下請・最大5社が中間)まで。分布でも平均でもない
- 運送業には「請負階層=真荷主との契約の後に締結された契約の数」という法定の定義がある(貨物自動車運送事業法24条の5第1項3号)。建設業には施工体制台帳がある(建設業法24条の8第1項)。ソフトウェア開発に相当する仕組みは、確認した範囲では見当たらない
- 中間マージンは「再委託の都度」引かれる。抜かれる回数を決めるのは契約の本数
- 下請に回る工程は開発56.6%・設計20.6%に対し、要件定義は5.5%。上流経験の不足は位置の帰結
- 次にやることは「数える→測る」。階層を上げる転職の値段は、階層の中にいるままでは分からない
参考・出典
- 公正取引委員会「ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書」(2022年6月29日公表。本記事で用いたのは、多重下請構造とサプライチェーンに関する記述、中間マージンに関する記述、取引上の位置付け〔n=4,589〕、資本金1,000万円以下の割合〔n=4,577〕、下請取引依存度90%以上〔n=2,670〕、取引先1社のみの割合、「中抜き」事業者の存在の実感、受注の経緯〔n=2,588〕、独占禁止法・下請法の知識〔n=4,321〕、問題のある行為を受けた場合の対応〔n=497〕、下請として担当することの多い工程、自由記載の3件、令和3年度の下請法措置件数。2026年8月25日に編集部が報告書本文で確認): https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2022/jun/220629_sw_03.pdf
- e-Gov法令検索 貨物自動車運送事業法(実運送体制管理簿の作成等=24条の5。「請負階層」の定義=同条1項3号。2026年8月25日に編集部が原文で確認): https://laws.e-gov.go.jp/law/401AC0000000083
- e-Gov法令検索 建設業法(施工体制台帳及び施工体系図の作成等=24条の8第1項/一括下請負の禁止=22条。2026年8月25日に編集部が原文で確認): https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC0000000100
- e-Gov法令検索 職業安定法(労働者供給事業の禁止=44条): https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000141
- 厚生労働省「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号): https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000046903.pdf
