SESの待機期間|支払われた額の根拠を条文で確かめる
待機に入った月の給与明細を見て、額が思っていたより小さいと感じたとします。このとき手がかりになるのは、待機が何日続いたかという数字ではありません。支払われた額がどの計算から出てきたのかは、条文までさかのぼって確かめられます。
支払われる額の土台になるのは、労働基準法が「平均賃金」と呼んでいる金額です。これはあなたの月給ではなく、直前3か月の賃金を暦の日数で割った別の金額です。本記事では、その算定式と、賃金から何かを引くときの要件を条文の逐語で開きます(本記事が引くのは労働基準法12条と24条1項。確認日:2026年9月2日)。
待機が何日で普通なのかという目安を、編集部はここに置きません。日数は会社の受注の側で決まりますが、額の計算は手元の書面から追いかけられるからです。
SESの待機期間とは、雇用契約だけが残っている期間のこと
SESの待機期間とは、会社どうしの契約が切れたあとも、あなたと会社の雇用契約だけが残っている期間を指します。常駐先と自社のあいだの準委任契約が終わっても、自社とあなたのあいだの労働契約はそのままです。だから会社には賃金を支払う義務が残り、その金額の計算に労働基準法が関わってきます。
常駐先との契約と雇用契約が別々に走っている仕組みそのものは、準委任・商流・単価の関係をまとめて置いた総論で扱っています。本記事は、その2本のうち下の1本だけが残っている月に何が起きるかに絞ります。
本記事の材料は、3つの作業から取りました。労働基準法の2か条と、検索上位12ページの見出し316件と、編集部が仮の数字を置いて出した計算例です。
給与明細を見て額が減っていた側の経験は、編集部の運営メンバーにはありません。働いてきた領域がWebマーケティングで、常駐先を外れて待機に入ったことがないからです。だから本記事に体験談はなく、条文と、編集部が手元で行った計算だけで組み立てています。
「6割」の6割は、月給のことではありません
この割合がかかる相手は月給ではなく、労働基準法12条が定める平均賃金という別の金額です。待機のあいだの賃金について、「平均賃金の6割以上」という下限を聞いたことがあるかもしれません。その下限がどういう場合に適用されるのかは6割という下限が出てくる場面を扱った記事の担当で、本記事は6割がかかる相手の側を開きます。
労働基準法12条1項の本文を引きます。分子と分母のそれぞれに、別の言葉が当てられています。
この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。(労働基準法12条1項本文)
分子は「以前三箇月間に支払われた賃金の総額」で、分母は「その期間の総日数」です。「総日数」は、その3か月に含まれる日の数を指します。同じ条の1号が「労働した日数」という別の語を使っていることからも、2つが違う数であることが読み取れます。同じ賃金を、分母の違う数で割ってみると差が出ます。
編集部が仮の条件を置いて計算しました。直前3か月に支払われた賃金の総額を90万円、その期間の総日数を92日、同じ期間の所定労働日数を62日とします。
| 計算する額 | 式 | 結果 |
|---|---|---|
| 平均賃金の日額(労働基準法12条1項本文) | 900,000 ÷ 92 | 約9,782円 |
| 月給を所定労働日数で割った日額(条文にはない値) | 900,000 ÷ 62 | 約14,516円 |
前者は後者の約67%です。そこから6割を取ると約5,869円になり、月給を日割りした額に対しては約40%にあたります。これらの数値はいずれも編集部の算出で、公表された統計値ではありません。
この計算例は編集部が置いた仮の条件によるもので、あなたの額とは一致しません。分母になる総日数は月の並びで変わりますし、分子も賞与の有無で変わります(後述)。

日給や時間給で決まる部分には、下回れない金額があります
12条1項にはただし書があり、2つの号が置かれています。1号は日給・時間給・出来高払で決まる賃金についての定めです。
賃金が、労働した日若しくは時間によつて算定され、又は出来高払制その他の請負制によつて定められた場合においては、賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の百分の六十(労働基準法12条1項1号)
賃金の一部が、月、週その他一定の期間によつて定められた場合においては、その部分の総額をその期間の総日数で除した金額と前号の金額の合算額(労働基準法12条1項2号)
1号の分母は「その期間中に労働した日数」で、本文の「総日数」とは別です。2号は、月給と日給が混ざっている場合の合算のしかたを定めています。日給や時間給の部分がある人は、本文の計算だけでは結論が出ません。
3か月をさかのぼる起点は、賃金締切日です
前項の期間は、賃金締切日がある場合においては、直前の賃金締切日から起算する。(労働基準法12条2項)
給与の締め日がある会社では、3か月をさかのぼる起点は直前の締切日になります。待機に入った日から数えるわけではありません。
計算に入る期間と、入らない賃金があります
同じ3か月でも、日数ごと外れる期間と、金額だけが外れる賃金があります。12条3項の柱書は、次の各号に当たる期間があるときは「その日数及びその期間中の賃金は、前二項の期間及び賃金の総額から控除する」と定めています。挙げられているのは次の期間です。
- 業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間(1号)
- 産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業した期間(2号)
- 使用者の責めに帰すべき事由によつて休業した期間(3号)
- 育児休業又は介護休業をした期間(4号)
- 試みの使用期間(5号)
待機に関わるのは3号です。会社の都合による休業の期間は、次に平均賃金を計算するときの3か月から、日数も賃金も両方が差し引かれます。待機が長引いて算定が2回目になる場面では、この定めがあるかないかで結果が変わります。
一方、12条4項が外すのは賃金の側だけです。日数には手を付けず、総額から特定の賃金を抜きます。
第一項の賃金の総額には、臨時に支払われた賃金及び三箇月を超える期間ごとに支払われる賃金並びに通貨以外のもので支払われた賃金で一定の範囲に属しないものは算入しない。(労働基準法12条4項)
「三箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」には、一般に賞与が当たります。賞与の比重が大きい人ほど、平均賃金の計算に入る金額は年間の支給総額から離れていきます。なお入社して3か月に満たない場合は、3か月ではなく雇入後の期間で計算します(同12条6項)。
引かれているなら、条文が挙げる入口は2つです
決まった賃金から何かを引くには、条文が挙げる2つの入口のどちらかを通っている必要があります。労働基準法24条(条見出しは「賃金の支払」)の1項は、本文で支払いの原則を定めています。
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。(労働基準法24条1項本文)
同じ項のただし書は、賃金の一部を控除して支払える場合を限定しています。冒頭にある通貨払いの部分は、ここでは省いて引きます。
…法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。(労働基準法24条1項ただし書。冒頭部分は編集部が「…」で省略した)
ただし書が開けている通り道は2本しかありません。1本目は「法令に別段の定めがある場合」で、所得税や社会保険料の控除がこれに当たります。2本目は、過半数組合、それがないときは労働者の過半数を代表する者との「書面による協定がある場合」です。
編集部が原文で読んだ範囲では、24条1項に「就業規則」という語は現れませんでした。ただし、ここは分けて読む必要があります。「支払う賃金の額をいくらと定めるか」という話と、「決まった賃金から引く」という話は別の問題です。前者は労働契約や賃金規程の定めが決めることで、24条1項が扱うのは後者です。
編集部が書けるのは、条文が定めている計算の順番までです。あなたの額が正しいかどうかは、この記事に載っていない書面——あなたの労働契約と賃金規程——を突き合わせないと決まりません。
編集部は、個別の事案が違法かどうかを判定しません。額が下がっていて説明がつかないときの相談先は、労働基準監督署の総合労働相談コーナーです。持って行くのは、給与明細と、賃金規程の該当箇所と、会社から受けた説明の記録です。

手元の3枚で、額の出どころをたどります
額の出どころは、明細と規程と通知書の3枚を並べたところで初めて見えます。順番は次のとおりです。
- 給与明細を開き、前月と比べてどこが減ったのかを1行ずつ見ます。基本給が下がったのか、手当が消えたのか、控除欄が増えたのかで、当たる条文が変わります
- 賃金規程(就業規則の一部)で、稼働のない月の賃金について何が書かれているかを探します。金額そのものの定めなのか、支払われた額からの控除なのかを見分けます
- 労働条件通知書で、入社時に示された賃金の額と計算方法を突き合わせます。3枚のあいだに食い違いがあれば、それが会社に尋ねる材料になります
入社前にこの3枚のうち何を見られるかを確かめる手順は、入社前に賃金規程の明文を見に行く工程で扱っています。本記事が扱っているのは、すでに待機に入ってしまった後の側だけです。
条件が還元率という割合で示されている会社では、稼働のない月にその割合が適用されるかどうかが別の論点になります。割合の分母がどこにあるのかは、待機の月に率が適用されるかを分母の側から見る記事にまとめました。
3枚のうち何がそろっているかで、次にやることが変わります
そろっている枚数で、今日できることの範囲が決まります。編集部の結論を、手元の状態ごとに書きます。
- 3枚ともそろっているなら:平均賃金を自分で計算し、明細の額と突き合わせるところまで今日できます。分子は直前の賃金締切日から3か月分、分母は同じ期間の暦日数です
- 給与明細しか手元にないなら:賃金規程を見せてもらうよう会社に求めるところから始めます。稼働のない月の扱いを、法律の条番号ではなく「賃金規程の第何条か」で尋ねるほうが早く進みます
- 明細も通知書も見当たらないなら:まず入社時に受け取った書類を探します。見つからない場合でも、給与明細は会社に再発行を求められます
どの状態でも、共通してやっておくことがあります。額が動いた月と、その月に会社から受けた説明を、日付つきで記録に残すことです。編集部は、この記録の有無で、あとから相談に行ったときの話の進み方が変わると考えています。
日数については、この記事は数字を置きません
編集部は、待機が何日で普通かという数字をここに置きません。理由を書きます。
2026年9月2日に、「ses 待機期間」の検索上位12ページから見出し316件を抜き出し、1件ずつ確認しました。日数の目安を見出しに掲げていたのは6件で、4つのサイトにまたがっていました。数字はサイトごとに違い、それぞれ別の出所を持っています。編集部はその出所を1件ずつ開いておらず、開かないまま日数を書き写すことはしません。
同じ316件のうち、条番号を含む見出しは0件でした。「平均賃金」という語を含む見出しも0件です。法令名を含む見出しは1件、「合法」または「違法」を含む見出しは3件で、これらはすべて同じ1つのサイトのものでした。
待機がどのくらい続くと危ないのかという問いへの当メディアの答えは、本文で挙げた3階層の記事の側にあります。編集部が期間の長さそのものではなく別の観点で見ている理由も、そちらに書いてあります。
待機のあいだにこそ、外からの提示を受け取っておきます
稼働が止まっている月は、外からいくらの提示が来るかを確かめる材料がそろっている時期でもあります。直前の現場で何をどこまで担当したのかを、まだ細かく思い出せるからです。使える時間という点でも、稼働している月より条件がよくなります。
今月のうちに動かせるものがあります。経歴を置いて、外から声が届く状態にしておくことです。その仕組みは営業からの連絡以外に外の評価が入ってくる窓口にまとめています。
届いた提示をどう読むかは、また別の作業になります。提示された金額を自分の値札(市場価値)の現在地に翻訳する手順は、稼働が止まった月にできる金額の棚卸しにあります。稼働の予定が立っていない段階でも、この読み替えだけは手をつけられます。
よくある質問
待機期間は休業扱いになるのですか?
「休業扱いになるか」は、会社の都合で働かせていないと言えるかどうかで決まります。当てはまる場合には支払いの下限が定められており、その下限がいくらかは本文で挙げた3階層の記事が扱っています。本記事が開いたのは、その下限の計算に使う平均賃金の側です。
自宅待機のとき、給与は何%になりますか?
労働基準法12条と24条を通して読んでも、「何%」を一律に定めた文言には行き当たりませんでした。自宅で待つか社内で待つかによって割合が変わるという定めも、この2か条にはありません。まず見るのは、あなたの労働契約と賃金規程が金額をどう定めているかです。
待機期間中に有給休暇を使えますか?
年次有給休暇は、待機中かどうかにかかわらず労働者に認められた制度です。取得のしかたや退職前の消化についてはこの状態から出ていく場合の進め方で扱っています。会社から一方的に消化を指示された場合は、その指示を書面かメールの形で残しておくと後の材料になります。
待機のあいだ、給与がまったく出ないことはありますか?
本記事では、そうした事案が適法かどうかを判定しません。編集部が示せるのは、賃金から控除するときに条文が求めている2つの入口(法令の定めか、書面による協定か)を通っているかどうかまでです。支給が0円になっているなら、明細と賃金規程を持って労働基準監督署の総合労働相談コーナーに相談してください。
待機期間中に何をしておけばよいですか?
編集部の勧めは決まっています。額が動いた月と会社から受けた説明を日付つきで記録に残すこと、そして直前の現場で担当した工程を、まだ覚えているうちに書き出しておくことです。
まとめ:日数ではなく、額の出どころを追う
- 待機期間は、会社どうしの契約が切れたあとも雇用契約だけが残っている期間です。賃金を支払う義務は消えません
- 「平均賃金」は月給ではありません。直前3か月に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数(暦の日数)で割った金額です(労働基準法12条1項本文)
- 日給・時間給・出来高払で決まる部分には、労働した日数で割った額の6割という下回れない金額があります(同12条1項1号・2号)。3か月をさかのぼる起点は賃金締切日です(同12条2項)
- 会社の都合による休業の期間は、次の算定の3か月から日数ごと外れます(同12条3項3号)。賞与など3か月を超える期間ごとに支払われる賃金は、金額だけが外れます(同12条4項)
- 賃金から控除できるのは、法令に別段の定めがある場合と、書面による協定がある場合の2つです(同24条1項)。この条に「就業規則」の語は現れません
手元にある書面の枚数で、今日進められるところが変わります(→「3枚のうち何がそろっているかで、次にやることが変わります」)。3枚そろっている人は、今日のうちに計算まで進められます。明細しかない人は賃金規程を求めるところから、どちらも手元にない人は入社時の書類を探すところからです。
会社に投げる質問は、先に決めておきます。稼働のない月の賃金がどの書面のどこに定められているか、控除があるならその根拠が法令と協定のどちらか、そして直前の賃金締切日がいつかです。現職に留まるかどうかを決める前にこの答えを記録に残しておくと、判断が速くなります。
使うサービスは、この段階では1つで足ります。外から提示が届く状態にしておけば、待機のあいだも自分の値札の観測が続くからです。制度の当てはめは個別の事情で変わるため、額の是非についての具体的な判断は、労働基準監督署などの公的窓口や社会保険労務士・弁護士に確認してください。
そして、日数はあなたの側で動かせません。明細の1行がどの式から出てきたのかは、今日のうちに追えます。
参考・出典
- e-Gov法令検索「労働基準法」(平均賃金の定義=12条1項本文/最低保障=同項1号・2号/起算日=同条2項/控除する期間5類型=同条3項1〜5号/算入しない賃金=同条4項/雇入後3か月未満の場合=同条6項/賃金の支払〔全額払いと控除の要件〕=24条1項)。当たった日は2026年9月2日。1回目に各項の全文を、2回目に各号の細部を見ている: https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049
